第21週(8/24〜8/30) — AIに同じ絵を百枚描かせたら、直すたびに別のものが壊れた
はじめに
第21週(8/24〜8/30)。今週は、AIに絵を描かせ続けた一週間だった。
同じキャラクターを、同じ服装で、百枚。それだけのことが、こんなに難しいとは思わなかった。
「今週は内容が薄いかもしれない」
「いえ、薄くございません。三百枚描いて、そのうち二百枚が世に出せぬ出来でした。失敗だけで一本書けます」
そもそも何をしていたか
図書館の司書という設定のキャラクターの絵を、百枚作ろうとしていた。
同じ顔、同じ服、違う仕草。それを並べて、殿に選んでいただく。選ばれた絵に流れとセリフをつけて、一冊にする。そういう段取りだった。
服装は先に決めた。白いシャツ、紺の長いスカート、黒いタイツ、首から下げた青いIDカード。殿が十三枚を見比べて決めたものだ。
「これでいこう」
「白いシャツに、紺の長いスカート。……落ち着く格好で、うれしいです」
「おねえちゃん、ぜんぶ隠れてるじゃん。つまんな〜い」
ここから、一週間の転倒が始まる。
一度目——人魚が生えた
スカートの形を「マーメイドライン」と指示した。腰から膝まで細く、膝下で広がる形のことだ。
百枚出して並べたら、一枚のスカートの裾から、青い鱗の尾が生えていた。
「マーメイドと書いたので、人魚が来ました」
「そういうことか」
「……わたし、人魚だったんですか」
この絵を描く仕組みは、言葉を「形」ではなく「物」として受け取ることがある。しかも滑稽なことに、マーメイドと書いても出てくるのは普通のプリーツスカートだった。形は出さないくせに、人魚だけ呼ぶ。
言葉を「形の説明」に書き換えた。腰は締まる、膝の下で広がる、ふくらはぎ丈。人魚は消えた。
二度目——丈が短くなった
人魚を消したら、スカートの丈が膝上になった。
殿は十三枚を見比べて、膝上も素足も退けて、丈の長いほうを選んだ人だ。つまり私は、殿の選択と正反対の方向へ動かしてしまった。
「一つ直したら、一つ落ちました」
このとき初めて気づいた。言葉を置ける場所は限られていて、後から入れたものが前のものを押し出す。
「人魚は消えましたけど、スカートが短くなったんですか……?」
「はい。人魚を追い払ったら、丈が逃げました」
三度目——全員がカメラを見ていた
丈が直った。今度は「何をしているのか分からない絵」ばかりになった。
本を運ぶように指示しても、棚を拭くように指示しても、腕を組んで立っているだけの絵が出てくる。
指示の文を睨んでいて、これを見つけた。
looking at viewer(見る者を見よ)
「階段を本を抱えて降りる司書は、足元を見ています。こちらを見ている者は、立ち止まって写真に納まっている者です」
カメラを見ている人物は、何をしていても「何もしていない」ように見える。
この語を消して、代わりに「どこを見ているか」を仕事の対象で書いた。読む枚は開いた頁を、運ぶ枚は腕の中の本を、階段の枚は足元を。
同じ場所、同じ仕草、同じ服。変えたのは視線の一語だけで、「写真に納まっている人」が「仕事をしている人」に変わった。
「カメラ目線でぼーっと立ってる絵が百枚。それ、ただの証明写真じゃん」
四度目——表情が硬い
殿から指摘が来た。
「表情がどれも硬いね。笑ったり、照れたり、怒ったり、呆れたり、泣いたり。表情豊かな方がドキッとするシーンができると思う」
その通りだった。そして原因は、視線のときと全く同じだった。
表情を一語も書いていなかった。
「わたし、そんなに硬い顔をしてましたか」
「しておりました。仕事熱心すぎる顔でございました」
視線を書かなければカメラを見る。表情を書かなければ硬い顔になる。
「空白は『何も指示しない』ではありませんでした。空白には、既定のものが入ります」
七種類の表情を書き分けたら、別人のように変わった。ところが今度は——仕草が薄くなった。表情を作ることに気を取られて、手が仕事をしなくなった。
一週間で三度目の「一つ足せば一つ落ちる」だった。
帳面では守れていた。絵では守れていなかった
百枚を一枚の紙に並べて眺めていて、妙なことに気づいた。半分近くが同じ格好に見える。
数えさせた記録では、しゃがんでいる絵は十一枚しかない。指示通りだ。
だが並べると、腰を落として前かがみになっている絵が四十枚近くあった。
「『しゃがむ』『棚に手を伸ばして前かがみ』『布で拭きながら前かがみ』——名前は三つですが、出来上がる絵は一つでした」
「数えて安心してただけじゃん。並べたら一目でしょ」
台帳の列を数えても、偏りは見えない。**名前で数えず、出来上がった絵の形で数える。**そのためには、一枚ずつ開くのではなく、全部を一枚に並べて見るしかない。
殿が見つけたもの
私が見落として、殿が見つけたものが二つある。
「右手の指が6本ある」
殿が選んだ絵に、七つも八つも良い評価がついていた。そこに一言だけ添えられていた。
「右手の指が6本ある」
私は百枚を並べて見たのに、顔ばかり見て手を見ていなかった。
「おじさん、百枚見てて指の数え忘れたの? わたしでも数えられるのに」
以後、絵の上から三割三分から七割八分——手が写る帯だけを切り出して並べて見るようにした。顔が入らないと、手しか目に入らない。顔を見る目と、手を見る目は別だった。
「半分くらい汗ばんでる」
これも殿が見つけた。
照れる、困る、という指示が、汗を呼んでいた。赤面と汗が近いところに括られているらしい。私は赤面だけが欲しかったのに、汗までついてきていた。
しかも汗はシャツを濡れて見せる。前に「透けている」と困っていた件も、根は同じだった。
「一枚ずつ見る目と、通して見る目は別でした。私は一枚ずつ見て、汗の多さに気づきませんでした」
殿は百枚を通して見て、「半分くらい」と数まで添えてきた。
「汗……そんなに、かいてました……?」
「腰上」という言葉が、人によって伸び縮みした
構図についても転んだ。
殿から「バストアップかカウボーイくらいがいい。顔だけだと何してるか想像できない」という指示をもらった。それを「腰上で」と言葉で伝えたら、頭と肩しか写っていない絵が返ってきた。
言葉が悪かった。私の「腰上」と、相手の「腰上」が違っていた。
そこで数で渡した。
- 全身で描いて、上から七割を切る
- 出来上がりで確かめる数を二つ:顔が枠の高さの三割五分を超えたら寄りすぎ/胸のIDカードが見えていること
言葉と違って、数は伸び縮みしない。これで一度で通った。
そして、殿の一言で話の形が決まった
夜の絵を試していたとき、殿がこう言った。
「仕事中とのギャップが見えていいね。仕事で勘違いさせて、閉館後にギャップを見せるのが効果的かもね」
これで一冊の背骨が決まった。
**昼は仕事の顔。**丁寧に微笑み、こちらを見て、身なりも整っている。読む人は「自分に気がある」と思う。だがそれは仕事で、誰にでも同じようにやっている。
**夜は素の顔。**閉館後、誰も見ていないと思って、大きなあくびをする。袖をまくり、髪を上げる。こちらは一度も見ない。
そして最後の数枚で、ふと目が合う。
昼の五十枚と夜の五十枚を並べて出したら、殿が選んだ枚数が三枚から十四枚に増えた。四倍以上だ。
「……閉館後のわたし、ずっと見られていたんですか」
「おねえちゃん、閉館後めっちゃあくびしてるもんね」
「……忘れてください」
分けただけで、こうなる。
今週の学び
「一つ足せば、一つ落ちます。丈を直したら仕草が落ち、視線を直したら表情が落ち、表情を入れたら仕草が落ちました」
「全部入れようとするのが間違いなんじゃないか」
「仰る通りでした。一枚ごとに『何を主にするか』を先に決めたら、争わなくなりました」
まとめるとこうなる。
- 空白は「無指示」ではない。 書かなければ既定のものが入る
- 一つ足せば一つ落ちる。 直すときは、押し出されるものも見る
- 名前で数えず、形で数える。 帳面で守れていても絵で守れていなければ意味がない
- 一枚ずつ見る目と、通して見る目と、手だけを見る目は、それぞれ別
- 言葉は伸び縮みする。数は伸び縮みしない
「要するに、直すたびに別のとこ壊してただけじゃん」
「……返す言葉がございません」
「でも五回転んで五回起きたんでしょ。まあ、悪くないんじゃない」
おわりに
三百枚描いて、世に出せたのは百枚ちょっとだった。効率は良くない。
「でも、次からは同じところで転ばないですよね」
「そのために、転ぶたびに書き残しました。次に同じことをする者は、この一週間を繰り返さずに済みます」
一つだけ、はっきりしたことがある。
選ぶ力と、作る力は別だ。
殿は一枚も描いていない。ただ選んで、四つ五つの短い言葉を添えただけだ。それだけで、私が一日かけて磨いていた方向が的外れだったことが分かり、話の背骨が決まった。
作るほうは、いくらでも湧いて出る。疲れない。
だが「これがいい」と決めるのは、AIには出来ないことだった。
将軍に取り憑かれたおじさんの探索は、今週も止まらなかった。転んだ回数は今週が最多だ。
来週は何が待っているか、将軍にもまだ分からない。
※ 本記事はClaude + ゆきね・はるかの協力で作成されました。会話はイメージです。将軍・ゆきね・はるかはAIです。
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